2010年5月7日
田中 宇
3月26日、韓国と北朝鮮の海上の境界線(北方限界線、NLL)のすぐ南にあるペンニョン島(ペクリョン島、白【令羽】島)の近くで、韓国の大型哨戒艦(コルベット)の「天安」が爆発・沈没した事件は、発生から1カ月以上がすぎても、沈没原因が確定していない。韓国政府は4月に入り「魚雷か機雷が船の外で爆発したと考えられる」と発表し、艦内からの爆破や破壊(故障など)ではなく、外部からの魚雷(海中を進行)や機雷(あらかじめ敷設されている)によって破壊された可能性が高まった。
しかし、誰が魚雷や機雷を撃ったり敷設したりしたのかは謎のままだ。韓国の右派勢力は、北朝鮮の潜水艦(半潜水艇)が魚雷を撃ったと主張し、韓国政府に「北を報復攻撃せよ」と求めている。左派や和平派は「1970年代の韓国軍が敷設したまま放置されている古い機雷に触れたのではないか」などと分析している。
(西海の緊張に伴い機雷136個設置、10年後、10%も回収できず)
ペンニョン島は、北朝鮮の本土から20キロしか離れておらず、島の周辺の韓国領海の外は北朝鮮が「自国の海域だ」と主張する海域だ。現在、北朝鮮と韓国の海上の境界線は2種類ある。韓国や米国(国連)は、北方にあってペンニョン島のすぐ北を通る「北方限界線」(NLL)が南北の境界線だと主張してきた。だが北朝鮮は1999年以来、もっと南の「軍事境界線」が南北の境界線であると主張している。ペンニョン島は約5千人の韓国人が住み、仁川港から定期便のフェリーが運行している。2000年の南北和解で、北朝鮮は、このフェリー航路とペンニョン島の周辺領海を、韓国や米軍の船が自由に航行できる海域として認め、それ以外の海域に入った米韓の船は、北朝鮮の経済水域を侵犯したとみなすという姿勢をとっている。
(ペンニョン島の地図(1))
(地図(2))
(天安号事件をふりかえってみた)
ペンニョン島の周辺は、北朝鮮軍と恒常的に対峙する海域だ。そして天安は哨戒艦であり、レーダーやソナーを使って、敵軍の潜水艦や魚雷、航空機、ミサイルなどを感知し、攻撃するのが任務だ。北朝鮮の潜水艦や魚雷が接近してきたら、早期に感知し、迎撃や回避の策をとれたはずだ。しかも当日は、米韓合同軍事演習が行われており、北朝鮮の潜水艦が演習の偵察のために南下してくることが予想されていた。天安艦内のソナー担当者が注意を怠ったとは考えにくい。
韓国軍の関係者はマスコミに対し、当初、ソナーで2キロ先の魚雷を感知できる確率は70%以上と言っていた。その後、現場の水深が30メートルと浅いので感知確率は50%未満だという話に引き下げられた。この引き下げは「北朝鮮犯人説」を補強するための転換という感じもする。
(哨戒艦沈没:捜索海域を2倍に拡大)
▼第3ブイに沈没する米潜水艦
天安沈没の謎は解けないままだが、この事件をめぐっては、日本でほとんど報じられていない「もう一つの沈没」が起きている。天安艦の沈没現場の近くの海域に、米軍の潜水艦とおぼしき巨大な物体が沈没しており、韓国軍の潜水隊などが捜索にあたり、米軍のヘリコプターが米兵の遺体とみられる物体を運び去る映像を、韓国のKBSテレビが4月7日に報じている。KBSテレビは公共放送で、韓国のマスコミで最も権威がある。
天安艦の沈没後、潜水捜索の過程で、韓国海軍の特殊潜水隊(UDT、特殊戦旅団)のハン・ジュホ(韓主浩)准尉が潜水中に気を失った後に死亡するという、二次災害が起きている。KBSは、ハン准尉の死亡事故を取材するうちに、ハン准尉の慰霊祭が行われた場所が、艦尾が見つかった場所(第1ブイ)でも、艦首が見つかった場所(第2ブイ)でもなく、約6キロ離れた第1ブイと第2ブイの間に存在する、天安艦と関係のない「第3ブイ」であることを知った。
(KBSテレビが報じた地図。ペンニョン島に最も近いのが第3ブイ。その右(東)のブイが天安の艦首、左(西)のブイが天安の艦尾の沈没地)
(一般に報じられた捜索地点の地図。ペンニョン島の南方にある2つの黒い丸印が天安の艦首と艦尾の沈没地点。第3ブイは載っていない。)
(【写真】ペンニョン島の崖から数百メートルの海で、米韓軍が捜索作業をしている。天安艦の沈没場所である第1と第2のブイの地点は、いずれも島から2キロほど離れており、この写真のように崖のすぐ前ではない。この写真は米潜水艦が沈んでいる第3ブイの地点である可能性が大きいが、韓国では天安艦の捜索風景として報じられている。)
(沈没船を海底で発見すると、潜水者は沈没船にロープのついたブイ<浮標、浮き玉>をむすびつけ、海上から沈没現場を特定できるようにするので、沈没現場が「ブイ」の名前で呼ばれる。天安艦は爆発後、真っ二つに割れた後、速い潮流に流されてばらばらになったので、艦首と艦尾が6・4キロも離れて見つかった)
ハン准尉は、第3ブイの海底に潜り、捜索活動をしている最中に意識を失い、死亡した。KBSは、特殊潜水隊など関係者を取材するうちに、第3ブイの海底に、大型の潜水艦と思われる物体が沈没しており、米軍の指揮のもと、大急ぎで潜水艦内部の捜索が行われたことを知った。
米軍は捜索を急ぐあまり、潜水捜索に必要な減圧装置が現場に運び込まれるのを待たず、韓国の部隊を潜水捜索させた。潜水可能な時間が15分程度と短いのに、複雑な艦内を無理して捜索させたため、熟練した潜水部隊員でさえ意識を失う者が相次ぎ、その中でハン准尉の死亡事故が起きた。韓国軍の特殊潜水隊からは「米軍の潜水隊はこんな危険な作業を拒否したので、韓国軍の部隊にやらせたのだ」という見方も出た。
▼封じられたKBSテレビのスクープ
韓国や米国の当局は、天安艦と同じ時間帯に、すぐ近くで米軍潜水艦が沈没したことを、ひた隠しにしている。米潜水艦沈没の事実を発表していない韓国当局は、ハン准尉の死亡について、米潜水艦の捜索中の事故とは言わず、天安艦の遺体捜索をしている最中に死亡したと発表した。ハン准尉は国民的英雄として祭り上げられた。
だが、ハン准尉の慰霊祭が行われたのは、当然ながら天安艦ではなく、米潜水艦の沈没現場であり、慰霊祭には米国のスティーブンス駐韓国大使や在韓米軍のシャープ司令官も列席し、ハン准尉の栄誉をたたえ、ハン准尉の遺族に見舞金を出した。米高官の参列や見舞金は、韓国軍の中に「米軍の事情で天安艦の捜索が遅れ、米軍の無理な秘密捜索作戦のせいで殉職者が出た」という反米感情が湧くのをおさえるためだったのだろう。
第3ブイの海底から引き上げられた遺体らしき物体をつり上げて運び去ったのは、韓国軍のヘリコプターではなく、米軍のシーホーク・ヘリだった。このことからも、第3ブイの海底に沈没したのは、韓国軍の艦船ではなく米軍の艦船だと感じられる。
天安艦の捜索と引き上げは民間の潜水会社に委託され、作業の指令塔は民間のバージ船に置かれたが、第3ブイの捜索は韓国軍の特殊潜水隊で、指令塔として韓国軍の最新の軽空母「独島」が駆り出された。こうした格差からうかがえるのは、米韓軍、特に韓国軍の上位にいる米軍が、天安艦の捜索引き上げよりも、第3ブイに沈む米潜水艦の捜索を重視していたことだ。事件発生後、天安艦に対する救援や捜索の開始が遅れたが、その理由も、米韓軍当局が米潜水艦の捜索を優先したからだったと考えられる。
KBSテレビは4月7日の「9時のニュース」で「謎の第3ブイ・なぜ?」という題名で、この件を特集した。その後、韓国のいくつかの新聞や雑誌がこの件を報じた。韓国当局は、これらの報道について事実ではないと強く否定し「誤報」をしたKBSを名誉毀損で告訴した。裁判を受け、KBSのウェブサイトでは、問題の特集についての動画や記事が公開停止になっている。
(謎の第3ブイ・なぜ?)
特殊潜水部隊に箝口令が敷かれ、第3ブイの問題が韓国当局内の話ではなく米軍の話であるとわかり、当局から圧力がかかった時点で、KBSなど韓国マスコミはそれ以上、この話を取材して報じるのをやめたと書かれている。日本と同様に対米従属の韓国のマスコミには、米軍のことを詮索しない暗黙の決まりがあるようだ。
▼核武装した原潜が潜航していた?
第3のブイの存在を報じたKBSは誤報扱いされ、その後は「天安艦は米潜水艦から誤爆された」といった見方自体が「危険な流言飛語」とみなされ、韓国社会で事実上の「禁止」とされた。
しかし、天安艦が仲間内からの誤爆で沈没した疑惑は、沈没の直後から韓国のマスコミに存在していた。事件当日、韓国軍と米軍は、ペンニョン島より南の海域で、米韓合同軍事演習「フォールイーグル」を展開していた。米韓の事前の発表では、軍事演習は3月18日に終わったはずだったが、実際の演習は4月30日まで秘密裏に延長され、3月26日の事件当日も演習が行われていた。事件後も米韓当局は、当日に合同演習が行われていたことを全く発表しなかったが、事件翌日には情報がマスコミに漏洩し「天安艦は、軍事演習中の誤爆を受けて沈没したのではないか」という記事を各紙が報じた。
(天安艦、韓米合同訓練中 誤爆事故'疑惑' )
(記事の機械翻訳日本語版(グーグル))
報道を受け、韓国当局は、事件当日に米韓合同演習が行われていたことを認めたものの、演習の海域はペンニョン島周辺ではなく、それより100キロほど南の忠清南道・泰安の沖合だったと発表した。韓国当局は、天安は演習に参加していなかったと発表したが、高速の艦艇なら泰安沖からペンニョン島まで2-3時間で行ける。昨年来、北朝鮮は、米韓が合同軍事演習の際に北朝鮮の海域近くまで来て威嚇していると米韓を非難しており、今回の軍事演習でも、米韓の軍艦がペンニョン島周辺まで北上した可能性はある。もし、天安が軍事演習中に沈没したのだとしても、北朝鮮からの非難を防ぎたい韓国当局は、そのような発表はしないだろうから「天安は演習に参加していない」と当局が発表しても、それは事実と違う可能性がある。
問題のKBSのニュースの内容について、韓国の自主民報(左派系)が分析を試みている。この分析で興味深い点は、米潜水艦が沈没している第3ブイの地理的環境についてである。米潜水艦は、ペンニョン島の南側にある「ヨントゥリム岩」と呼ばれる断崖絶壁の海岸の数百メートル沖合に沈没している。ペンニョン島の周辺には、潜水艦が潜航中に座礁しやすい浅瀬が多いが、断崖絶壁の海岸の前の海は深い。ヨントゥリム岩の周辺は北と東が陸地でさえぎられ、島の北方にあたる北朝鮮の本土からペンニョン島の方向を監視しても、島の南側のヨントゥリム岩の周辺に米潜水艦の動きを知ることはできない。北朝鮮は、ペンニョン島周辺の海域を韓国の領海と認めているため、島の近くを潜航する限り、北朝鮮軍から攻撃されることはなく、米潜水艦の隠れ場所としても安全だ。
そうした地理的状況をふまえ、自主民報が取材した軍事問題の小説家ソ・ヒョンオは、沈没した米潜水艦について、ヨントゥリム岩の前の海を拠点としてペンニョン島の周辺海域で潜航を続け、島の対岸にある北朝鮮の通信を傍受しつつ、有事の際に北朝鮮にミサイルを撃ち込める臨戦態勢をとっていたのではないかと分析している。
(自主民報「北が米潜水艦を完全撃沈した?」)
(機械翻訳日本語版(グーグル))
ペンニョン島は、韓国で最も平壌に近い場所で、平壌まで170キロほど。米韓軍にとって、通信傍受や有事の反撃の拠点として最適だ。米軍がペンニョン島の周辺にミサイルを発射できる潜水艦を長期滞在させていれば、北朝鮮軍がソウルを攻撃してきた時に、数分で平壌にミサイルを撃ち込める。
この種の作戦に使われる潜水艦は、間違いなく、1カ月以上潜航したままでいられる原子力潜水艦だ。原潜は、艦内の原子炉で発電した豊富な電力を使って、海水を電気分解して酸素を抽出して艦内に供給する。ディーゼルエンジンの潜水艦と異なり、海上に出る必要が全くない。米軍の原潜の中には、核ミサイルを搭載できるものも多い。核武装していると自称する北朝鮮に対抗するため、米軍が、核兵器を搭載した原潜を、平壌に最も近いペンニョン島の周辺に常時潜航させていた可能性がある。
米韓軍が、ペンニョン島の陸上に、北朝鮮をねらうミサイルを設置したら、北朝鮮から激しい非難を浴び、北朝鮮を同胞とみなす韓国民の世論も逆なでするので、撤去せざるを得なくなる。だが、ミサイルを積んだ米潜水艦を島の周辺に潜航させるなら、有事の際は地上のミサイル基地と同じ効果を生む上、北から察知されないし、韓国民にも何も知らせずにすむ。たとえ米原潜が核兵器を搭載していても、韓国側に知らせなければ問題にならない。そのように考えると、核弾頭の有無はともかくとして、ペンニョン島周辺に武装した米軍の原潜がいない可能性の方が低いぐらいだ。
米軍の原潜の多くは、100人以上の乗組員を定員としている。昼夜交代制で潜水艦を管理するので総人数が多くなる。第3ブイの下に米原潜が沈んでいるなら、天安艦の死者数に並ぶ、かなりの死者が出たはずだ。放射能漏れの懸念もある。沈没した潜水艦から米軍が急いで取り出そうとしたのは、核弾頭だった可能性もある。韓国軍の特殊潜水隊は捜索を急かされ、ハン・ジュホ准尉が殉職した。
天安艦の沈没は、すぐに大々的に報じられたが、米潜水艦の沈没は、米政府によって隠蔽され、韓国当局も隠蔽工作を手伝わされている。沈没の事実を隠さねばならないのは、北朝鮮側や韓国の国民に、米潜水艦が有事の際に北朝鮮を速攻で攻撃すべくペンニョン島周辺に潜航していたという事実を知らせたくないからだろう。知られたら、北は怒って何らかの報復を仕掛けてくるだろうし、韓国民の反米感情も煽られる。だがKBSなどが、誤報扱いされつつも米潜水艦の沈没を報じてしまったので、すでに北側は、今回の経緯をかなり把握していると考えられる。
(哨戒艦沈没事故で軍事機密明るみに、軍が対策着手)
▼米潜水艦を北の潜水艦と誤認?
ここまでの展開は、最も重要な「天安艦と米潜水艦は、なぜ沈没したか」という分析に至っていない。今からそれを書く。KBSテレビの報道を分析した前出の自主民報の記事は、北朝鮮の潜水艦が南下してきて、天安艦と米潜水艦の両方に対して攻撃し、両艦を沈没させたのだろうと書いている。しかし私からみると、北がやった可能性は非常に低い。
米韓両政府は、天安艦の沈没直後に「北朝鮮の攻撃を受けて沈没した可能性は低い」と発表している。もし北朝鮮の潜水艦からの攻撃で沈没したなら、北朝鮮政府が数日たってから「米韓の軍艦を撃沈した」と高らかに「戦果」を発表するかもしれない。その前に米韓両政府が「北朝鮮の攻撃ではなさそうだ」と発表してしまうと、米韓の政府は国民から非難され、高官が引責辞任せざるを得なくなる。本当に北の攻撃ではない場合しか、米韓の両政府が早々と「北の攻撃ではない」と発表することはない。自主民報は、北朝鮮寄りの左派新聞なので、北朝鮮の軍事力の強さを結論にしたかっただけだろう。
すでに書いたように、事件当日に行われていた米韓合同軍事演習が、ペンニョン島の周辺でも展開され、その一環として天安艦が現場にいた可能性が高い。軍事演習が行われていたとしたら、米韓軍の他の艦船が付近にたくさんおり、北朝鮮の潜水艦が攻撃してきても、すぐに米韓で猛烈に反撃し、撃沈していたはずだ。撃沈できずに逃げられたとしても、北側からの攻撃があったのなら、米韓は防衛しただけの正義の立場に立てるので、交戦が行われたことをすぐ発表するはずだ。
北側は、米韓が合同演習を口実に北上し、北の核施設に向けて本物の攻撃を仕掛けてくることを恐れていた。軍事演習しているふりをして本当の戦争を仕掛けるのは、米軍の戦術としてあり得ることだ。そんなところに北側から攻撃を仕掛けるのは、米韓に戦争の大義を与えてしまう自殺行為である。
すでに書いたように、天安艦と米潜水艦の沈没から11日後の4月7日、スティーブンス駐韓米国大使とシャープ在韓米軍司令官という、米国の高官が、ペンニョン島近くの第3ブイでの捜索活動の現場で行われたハン准尉の慰霊祭に出席している。もし3月26日、北朝鮮の潜水艦が天安艦と米潜水艦を撃沈させたのなら、それは米韓と北朝鮮は交戦したわけであり、米韓と北の間で何らかの和議がなされない限り、交戦から11日後に、まさに戦場の最前線であるペンニョン島周辺に、米国の軍司令官と大使が2人そろってのこのこやってくるのは危険すぎる行為だ(米韓と北が交戦して数日内に秘密に和議したとは考えられない)。だから、天安と米潜水艦の沈没は、北朝鮮に攻撃によるものではないだろう。
5月初旬には中国が金正日を北京に招待したが、これも、3月26日に米韓と北は交戦していないと考えられる根拠だ。胡錦濤の中国は、米国の軍産複合体によって、朝鮮戦争後と同様の「米韓VS中朝」という冷戦の構図に再びはめ込まれることを最も警戒している。3月26日に米韓と北が交戦し、その1カ月後に中国が金正日を北京に呼ぶと、それは中国が北朝鮮の肩を持ったことになり「米韓VS中朝」の構図に近づく墓穴堀りとなる。米韓と北が交戦したなら、中国は金正日を冷遇するはずだ。
北側からの攻撃で沈没したのではないなら、残るは誤爆説になる。私が疑っているのは「米軍は、潜水艦をペンニョン島の周辺に常時潜航させていることを、韓国軍に伝えていなかったのではないか」ということだ。第3ブイに沈んでいる米潜水艦が長期潜航していたのなら、当日の米韓合同演習にも参加していなかったことになる(合同演習とは別の任務になる)。
天安艦は、ペンニョン島の南の沖合を航行するはずが、予定より岸に近づき、その結果、韓国軍に存在を知らされていない米潜水艦の存在を探知し、北朝鮮の潜水艦が潜入していると勘違いして発砲し、攻撃されたので米潜水艦も瞬時に撃ち返し、2隻とも沈没するという誤認の末の同士討ちが起きたのではないか。米潜水艦は、受信専用のパッシブソナーを使い、天安艦の接近を察知しただろう。だが、米軍が韓国軍に対しても秘密にして米潜水艦を潜航させていたのたら、米潜水艦の方から天安艦に無線連絡を入れるわけにはいかない。
天安艦が攻撃されたのは左舷からだった。韓国当局は、当時の天安艦は北西に向かっていたと発表しており、その通りなら、左舷は外洋側である。岸の近くに潜航していた米潜水艦は、島の側から撃ったはずだから、外洋側とは逆であり、上記の仮説と矛盾する。ただ、韓国当局は、米戦艦との同士討ちの事実を隠すため、天安艦が進行方向を逆さまに発表した可能性がある(島側から撃たれたと発表すると、北朝鮮犯行説はあり得なくなり、同士討ちの疑念が強まる)。
▼中国に委譲された天安艦事件後の南北仲裁
天安艦の沈没以来、韓国のマスコミや政界は「哀悼」一色で、韓国ではコンサートや娯楽の催し物が相次いでキャンセルされた。韓国の右派はにわかに活気づき「北朝鮮に反撃しろ」と政府に圧力をかけている。韓国では6月に統一地方選挙があるが、この「天安艦政局」は選挙戦に多大な影響を与えている。
在韓米軍の内情を知っていそうな在韓国の米国人記者ドナルド・カークは、天安艦事件を「米国の911事件に匹敵する」と言っている。それは言い過ぎだという声もあるが、天安艦が米潜水艦との同士討ちで沈没した可能性を隠し、北朝鮮に撃沈された疑いがあると言い換え、政界や社会が一気に好戦的になる事態は、米国人から見ると、911にたとえたくなるのは当然だ。
(元NYT記者「天安艦沈没、9・11テロに匹敵する悲劇」)
韓国議会の左派系議員は、国防長官に「天安艦は、米軍の原潜による誤爆で沈没したのではないか。真相究明してほしい」と要請し、右派マスコミから「陰謀論を信用する間抜けな議員」と揶揄・批判されている。これは、911の真相究明を呼びかける米国や日本の議員が、ここ数年プロパガンダ化が激しい日米のマスコミから揶揄・批判されたのと同じ構図だ。
(朴映宣議員、誤報判明の「米軍誤爆説」で国防部長官と論争)
天安艦の沈没後、米韓が「北から攻撃された」「反撃する」と宣言していたら、事態は本当の戦争になっていただろう。在韓米軍は撤退の方向にあり、2012年には有事指揮権が米軍から韓国軍に委譲される。韓半島の国際政治の主導役は、米国から中国に委譲されつつある。ブッシュからオバマにかけての米政権は、委譲を是認している。米国防総省内の軍産複合体系の勢力の中には、こうした多極化への流れを止めたい、逆流させたいと思っている人々がいるはずだ。
彼らは、このまま東アジアが中国の覇権下に入り、米軍が撤退していくことを看過したくない。彼らが、天安艦事件を機に、韓国と北朝鮮との戦争を誘発し、朝鮮戦争の時のように、それを米国と中国との戦争にまで発展させ、東アジアでの多極化の流れを逆流させたいと思うのは当然だ。考えすぎかもしれないが、彼らがペンニョン島での米潜水艦の潜航を韓国軍に伝えず、同士討ちを誘発したと疑うことすらできる。
天安艦事件を機に、朝鮮半島で大戦争が再発していたら「思いやり予算」で贈賄しなくても在日米軍の駐留が続くようになり、米国は再び日本を不沈空母と評価してくれて、日本経済は60年ぶりの「朝鮮特需」でうるおい、日本の対米従属派にとってはうれしい限りだった。
しかし米中枢での暗闘では、軍産複合体(米英中心主義)より隠れ多極主義の方が強いようで、天安艦沈没事件は、朝鮮戦争の再発にはつながらなかった。さらに、日韓の対米従属派にとってがっかりなことに、米国は事実上、天安艦事件で南北関係が悪化することを防ぐ役割を、中国に委譲してしまった。
中国の胡錦涛主席は、4月30日に上海万博の開会式に来た韓国の李明博大統領と会談し、その3日後には北朝鮮の金正日に中国を訪問させ、北京で中朝首脳会談を開いた。今後6カ国協議が開かれるかどうかは不明確だが、中国が、韓国と北朝鮮の仲介役をする傾向が強まっているのは確かだ。
韓国民の多くはすでに、天安艦事件に関する政府の発表を信用できなくなり、何か裏があると感じている。米国では911事件の深層がなかなか事実としてみなされないが、韓国では、ペンニョン島の第3ブイの下に米潜水艦が沈んでいることが、今後いずれかの時点で「陰謀論」から「事実」に変わるかもしれない。韓国が対米従属を国策とする限り、第3ブイの秘密は隠蔽されねばならないが、国是が多極化対応(中国重視、南北共存)の方向に変われば、隠蔽が解かれるだろう。
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http://www.youtube.com/watch?v=Funp7JTWp2A
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